乱歩迷路

shinka2005-08-24


江戸川乱歩傑作選』
・『二銭銅貨
・『二癈人』
・『D坂の殺人事件』
・『心理試験』
・『赤い部屋』
・『屋根裏の散歩者』
・『人間椅子
・『鏡地獄』
・『芋虫』

乱歩を読んでいて、ふとある種の懐かしさを感じた。それが何か、初めはわからなかったが、先へ読み進めて思い出した事があった。小学生の時、図書館にこもって−それは文字通り床にドンと根をはやし、放課後全てを費やした−愛読したのは、ズッコケ三人組ゾロリ・ほうれん草マン、そして乱歩シリーズである。もちろん、あの時読んだ古いハードブックの乱歩は全て少年向けのそれであったが、それでもあの文体、あの構成は覚えているものがあった。

さて、この傑作選であるが、素晴らしいラインナップではないだろうか。まさに乱歩の中でも秀逸な作品たちである。特に並べ方が良い。一篇目の『二銭銅貨』は彼の処女作でもあり、また南無阿弥陀仏を利用した暗号トリックは正に海外作品を愛読していた彼が、自分の土地・日本での探偵小説の成功と後の大成を示唆している。そこから『心理試験』までは、その探偵小説・推理小説でもってゆき、『赤い部屋』からは次第にその変態的で怪奇的な世界が見え始めてくる。そして、それは『鏡地獄』での絶頂を超え、『芋虫』で完成を向かえる。素晴らしい!まるひとつの曲のように完成度の高いアルバムを聞くかの如く、それは傑作集でありながらも、ひとつの作品、一つの世界を提示していようにきれいだ。




江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)