蛇行する川のほとり /恩田陸』

shinka2005-01-26

やはり恩田陸は素晴らしい。こういうやつを求めていたのだ。
ホラーとかサスペンスなんていうカテゴリーはあまり好きでなくて、ビデオ屋なんかでもそのブースはスルーしてしまう。けれどもそんな私が好んで読むサスペンスがある。恩田陸の本だ。彼女の語り方は素晴らしい。彼女の恐怖は身近にあるものであると同時に神々しく存在している。まるで、田舎のおばあさんが寝る前に語ってくれる恐ろしくも神秘的な昔話のように、彼女の語る話には親しみと確かな存在の重みと息吹を感じる。
私が彼女の本に惹かれるのは、一種の自分のM性のためある。彼女の、その見事な文章による華麗なる罠に落ちてゆく。之ほど、官能的で興奮的なものはない。私は彼女の本を読んでいるときいつも思う。私は今罠に落ちている。そしてそしてそれを望んで喜んでいる。それが私にとって恩田陸を読む理由であると同時に、もっとも幸福な時間なのである。
しかし、今回は文章の波を感じた。作者がのって書いてる部分とそうでない分がわかる。彼女の文章はおもしろい。人をひきつけるテクニックと神秘的な力が働いている。しかし、だからこそ無駄な部分が今回は目に付いた。いらない一行。文章なんか書いていない私でも感じるのだから、それは誰が見てもわかるものだと思う。「そんな風にして私たちは午後を過ごした。」よく目にするフレーズだが、之ほど手を抜いた文章はないと思う。恩田陸ほどの天才がこの文章を、誰からでも後付けとわかる場所に定置したのは、何かあるかと思えば何もない。そんな感じの表現が今回は二、三個目に付いた。それが残念だ。
しかし、それを差し引いてもやはり近作は彼女らしい、また彼女の作品である。
私はいつもそうしているように、恐怖と興味に満ちた顔でページをくる。
その先に待つ見事な罠にかかりたいと思って。そして僕は罠に落ちた。


蛇行する川のほとり

蛇行する川のほとり