我輩は誰であるか

shinka2006-05-11


就活は昨日で終了したが、何となく残ってしまった。
今いるところは、兄貴の家。正確に言えば、兄貴の嫁さんのご両親のビル。
昨年までここではご両親達が経営する肉屋があったが、今ではスッカリ改装して一階と二階にはオサレなカフェが入っていた。兄貴夫婦の住まいはこのビルの四階にあり、私はここに厄介になっている。厄介と言っても兄貴は朝早くから日付変更まで仕事だし、嫁さんはハワイに行っているらしく不在で、家には自分一人しかいない。
そう思って退屈にワイドショーを主婦のような気持ちで見ていると、後ろのほうで何かが崩れるような音がした。忘れていた。この家には私のほかに猫が一匹いるのだ。猫の名前はミーちゃん、3歳。猫好きの人にはたまらないシチュエーションだろうが、元来動物と過ごしたことのない私にとっては恐怖でしかない。夜中、物音に目を覚ましみると、顔の近くに猫が座っていてビックリした。だって咬まれるかもしれないじゃん。
しかし、朝方猫と遊んでくれと言われたので、今日ばかりは無視も出来ない。物音の方へ向かってみると、見事にダンボールが傾いていて、猫が「俺知らなーい」と顔で尻尾を振っている。これだ、これ。この我儘さが猫を好きになれない理由の一つだ。近づいて手を差し出すと、お得意の猫パンチを浴びせられた。見た目には丸い手でかわいいのだが、実際は鋭い爪が引っ掛かりとても痛い。
接近戦は明らめ、先にネズミのヌイグルミがついた長い紐で長距離戦で勝負だ。
「ほら、ほらーネズミだよ」と猫の前で紐をブラブラさせてみるが、猫は「お前何してんだよ」と目の前の紐ではなく明らかに紐を廻している私の方を見ている。猫には全てお見通しのようだ。かわいくもない。
そうやって猫の目を見つめてみると、猫の目というのは大変奇妙である。
まず、ご存知のように猫目といって形が楕円というかひし形で怖い。
さらにこの猫は眼球が黄色で、黒めが緑とかなりコンテンポラリーな配色をしてらっしゃる。
なんだか気味が悪くなったので、早々に猫と遊ぶことを明らめて居間に戻る。
猫は「なんだい、もうギブアップかい?」と言った様に欠伸をして笑ってやがる。
と、そこで初めて私は猫との会話全てを私一人でしている、独り言を言っていると気付いて俺はそんな気持ちの悪い奴じゃない!!と再び猫に勝負を挑むのであった。
「けっ、新参者めが」と猫はその後の私のあらゆる娯楽も受け付けなかった。


私は何を躍起になっているか。
たがが猫ではないか。
しかし、されど猫でもあるのだ。
猫は子供で、頭が良くて、綺麗で、気持ち悪くて、動物的で、人間的だ。
私は猫に勝負を挑んでいるのか。
高飛車な女を相手にしているのか。
猫は誰だ。
私は人間だぞ。
猫よ、おまえが欲しい。