死にかけた白い町
今日、田舎から帰ってきた。
昨晩から降り続いた雪は、珍しく田舎の町を白く染めていた。
地元に雪が積もったのを見たのは生まれて初めてだ。
両親の幼い頃には腰まで雪が積もったこともあるそうだが、
温暖化のせいか僕の記憶には積雪どころか雪が降ること自体珍しい。
地元にいる間、暇さえあれば海を見に行った。
家から海まで徒歩三分。暫く坂を下っていけば直ぐ見えてくる。
冬の海は、見に行くほどの良いものではない。
波は荒々しく打ち寄せ、
海鳥は餌を探して忙しなく飛び回り、
空にはまるでノルウェイにかかるような重く黒い雲が覆っている。
海を見て都会の喧騒を少しでも忘れて・・・なんていう人は向かない風景だ。
そこにあるのは何かの“終焉”でしかない。
そして、僕はそれを見るためだけに海を見に行った。
終わりを見るために海に行ったのだ。
そこに行けばわかる。
その土地に足を踏み入れれば、その空気に気づくはずだ。
そこが、何かが終わってしまった場所であることに。
駅のほうはどうであろうか?
通っていた小学校は少子化により閉校になり、
生活を彩っていたデパートは、全く関係のない所の事情で閉店した。
この町で何をすればい良い?
間違いなく僕が生まれた町は死にかけている。
海に行けばわかるさ。
人がいるところは、何かが崩れかけていても「まだ大丈夫!」と希望を捨てない。
でも、海に行けば、そこに誰もいなく、
あるのは閉館した宿と会館と、それでも繋がっている電柱と海鳥と
そして海があるだけだ。
この場所は「ほら言わんこっちゃない。もう駄目だよ。」と言っているみたいだ。
そこで僕は「嗚呼、やっぱりそうなのか。」と
何かの確認作業をするために海に行き続けた。
人が集まれば、やがてそこは町になる。
人が歩けば、足跡はやがて道となる。
でも今年、地元に降った雪はそんな弱い僕らの足跡さえも跡形もなく白く塗りつぶした。
だから僕はその真っ白な雪の上に、何度も何度も自分の足跡をつけた。