また逢う日まで(独唱)

shinka2005-09-26


空は赤く、青くなっている。
朝帰りの帰り道は、いつもの嫌な匂いと口の中のザラツキがまとわりついている。
家で裸で寝ていても、ドロドロした体は浄化されない。
シャワーを浴びれば?そうじゃないさ。僕は唯、もう一つのドロドロを待っているだけ。
忘れ物をした。ドロドロは其処まできている。
今度でいいじゃないか。そうじゃないさ。欲しいものは風さ。
心が躍る。キックボードに乗ろう。何処までも。右足がしびれてもへっちゃらさ。
腕が震える。茶色電車に乗ろう。ちょっと其処まで。
家をベランダから入る。忘れ物はそこにあった。僕が出て行ったままの空間。
でも、忘れ物が忘れられなかったことで、そこの空間は依然よりも少し比重を軽くした。
さて、どうしようか。こいつがあれば何でも出来る。覚えていますか?自転車が乗れた日を。

なんて安っぽい事を考えなら、左足は漕いでゆく。
そうだ、其処まで行ってみよう。あの人が働くお店まで。
やっているだろうか?やっているさ。そら、行け。
心が騒ぐ。キックボードに乗ろう、あの子の所まで。左足が空廻ってもへっちゃらさ。
日曜日。子供の手も引く黒いもの。ギターケース。青い髪。小奇麗なおば様に黄色いバイク。
あの子はいるだろうか?そこにいるさ。でも関係ない。
何をしている?まだ何もしてないさ。寂しいオフィス街の日曜日。
ブルーの看板ばかり目障りだ!消え失せろ。そして僕もだ。
心が冷える。赤い電車に乗ろう。ちょっと遠くに。
前から欲しがっていた本を買おう。
前から見たかった映画を見よう。
あと二時間。あの喫茶店でタマゴサンドウィッチを頼もう。
そんな日があってもいいじゃないか。そんな日曜日をすごしてもいいじゃないか。
幾分、心は晴れるだろう。あるいは自ら雨に打たれてみよう。
心が浮遊する。赤い電車に乗りました。町が流れてゆく。
懐かしい町よ。さようなら。
小分けされた存在地区のジャングルのような空中庭園。ばばぁめ、死にやがれっ!
愛でも恋でもなくて、あなたに逢いたいのです。
あの曲を聞こう。もうすぐ冬だけど。
また逢う日まで


東京奇譚集

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