貴様はアホだ!

引き続き三谷本の話。
僕は移動中に本を読むと言うことをしない。
本でさえノンストップ・エンターテイメントだと思っており、出来る限り時間を作って読むことにしている。
だから電車の中で読む本があっても、それは雑誌であったり漫画の画だけであったり、
あるいは星進一のような短いエピソードで構成されたものだけである。


そういう意味では、三谷本も雑誌のコラム集なのでそれに当たる。
だから僕は電車に乗るたびに本を開いて読んでいたのだが、
これがヤヴァイぐらいに面白い。
それも重箱の角を突付くような面白さで、まるで逃げ場がない。
それでも電車の中ということもあり、笑いを必死で堪えていた。
けれども「その夜、偽力士と二人でチャンコ鍋と突付いた」という一文でノックアウト。
笑ってしまった。
しかも笑うのを我慢していただけにそれは従来の「アハハハっ」という笑い声ではなく、
口から漏れるような「グフフフ」という絶対的に気持ちの悪いものであった。
しまった!と思ったが、時既に遅し。明らかに僕の周りの空気が変わった。
隣に座っているOLさんなんぞ「参ったなぁ。とんだ奴の隣に座っちまったぜ」という顔つき。
恥ずかしい。この空気が耐え難い。
そこで僕は何を思ったが、引き続き気味の悪い「グフフフ」という笑いをした。
もうこうなったら、降りるまで頭のおかしい人で通してやる!
あーそうだよ、俺は頭がおかしいよ。そうだ見ろよ、俺を哀れみの目で見ろよ。
幾分気持ちが軽くなった。
そうだ、今の俺は演じえいる仮初の姿。決して僕自身ではないのだ。
そう自分に言い聞かせるが、自体は確実に悪い方向に進んでいる。
そのときだ!
父親に抱っこさえている乳児がこちらを見つめている事に気がついた!
彼は首をこちら側にもたげ、真っ直ぐな、それこそ突き刺さるような視線をしてくる。
やめろー!やめてけれー!そんなイノセンティックな目で俺を見るな!
俺が世界一の大馬鹿になってしまう!違う、違うんだー!これは俺じゃない!!


数分間、乳児と格闘し、僕は完敗した。
それからは唯早く目的地の駅に着かないかと、大人しく下を向いて過ごした。



オンリー・ミー―私だけを (幻冬舎文庫)

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