『野獣死すべし /村川 透』

shinka2006-06-07


僕はオーラというものを信じていない。
良く聞くところにある、あの人からはオーラが出ていたなんていう話は嘘だと思っている。
だって同じ人を見ているのにある人は感じ、ある人は感じないなんておかしいじゃないか。
だからきっとオーラというのは対象者が出しているのではなく、見ているその人自身が勝手に作り上げた言わば固定観念の産物だと思っている。

その僕がオーラを信じずにはいられないモノが二つある。
一つは東京タワーだ。
何度見ても何かをくらってしまう。昔から見えた未来のカッコ良さは、今のものとは別のものかもしれないが、それでも先に進むことを光だと思っていたこの副産物は本当に攻撃的に僕を攻める。なんだい、おまえらの未来はこんなものか?大したことねぇな。そう言われてるみたいで、東京タワーは唯我独尊のように一人でシャンと立ち、そこにたたずむ凡人たちが恩恵を受けようと周りをかっこっている。多くの人の気持ち、願い、苦しみを吸い込んだ東京タワーはもはや既に唯の電波塔なんかではなく、一個のバイブルのような存在としてそこにいる。


そして、もう一つオーラを否応なしに感じてしまうのが松田優作だ。
もちろん、彼にあったことはない。
しかし、画面に存在する彼は本当に凄い。何かが暴力的なまでに滲み出いる。
全然カッコいい顔なんてしていないのに、映画のなかで見る彼は本当に魅力的で、色気とも迫力とも違う人の「生」のようなものを唯ひたすらに真剣に撃ってくる。そんな奴に惚れないわけがない。
そんな彼の魅力が最大限に垣間見れるのがこの『野獣死すべし』だ。
この作品の中の彼は本当にイカれてる。やばい。
彼の魅力を中心に全てのことが回っている。彼の演技とも言うのもおこがましい動きを中心に、カメラ、照明、音楽が回りだし其其を其其で高めあう。松田優作の尋常ではない気持ちの効果的に見せる照明に、素晴らしい音楽が重なり、そしてその瞬間を卑怯なまでにカメラが捕らえる。本当に最高だ。
この映画で僕の映画史は完全に塗り替えられた。
唯一無二、傑作、聖書。
全く僕は今まで何を見てきていたのか。やっぱりお世辞なんて必要のない、ガツンとくる作品はあるんだ。
今ここで上記の言葉を見返してみても全く持って作品を言い当てていないことに愕然とする。
初めて人に強く映画を薦める。わからなかったらとりあえず見てくれ。
僕がこの作品で特に好きなシーンを挙げてみる。
・優作が自宅でピストルを構えて「ヒューン」って言うシーン。本当に目が死んでいる。
・タクシーの中で小林麻美に手を握られる優作。ワイパーの音と優作の顔に注目。
・恋人を殺して落ち込んでいる鹿賀丈史を慰める優作。このシーンのカメラの動きがやばい。
・電車の中から廃墟までの戦闘服を着た優作のキレぷり。もはや説明の必要なし。廃墟のラストは魂抜かれる。

あー駄目だ。全然この作品の良さを伝えられない。
とにかくこの映画を見るにあたって大事な事は殴りかかってくる優作の拳を喜びと悲しみをもって受け止めることだと思います。


野獣死すべし [DVD]

野獣死すべし [DVD]